2023-01-01から1年間の記事一覧
なまぐさき死せる魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら秋…
水葬の喇叭の合図おかしみいざないながら骸を放る 天わずか触れる指あり午后はるかひろがるばかり冬のきら星 蝶番喪う夜よ木箱持て歩きさまよう子供たち来る つづきのない夢のなかにて眠れるをいま醒めてゆくかたわらの犬 ひとがみな憑かれて去りし道半ば老…
発条の不在やひとりかくれんぼ発明以前の愛のまなざし 鏡との婚姻ぼくの手のひらが熱くなるなり ときめきテレパシー 花ひらく 蕚のなかをいま泳ぐ群小詩人と夢の諍い 繭眠る糸の一条われをまだ赦さないかのように搦んで なまえなくひとり不在の花撰ぶ学校花…
* 日干しする鰯の顔にぎらついたわれが映った両の眼の真昼 それは否 これも否かな ひとびとが遠く離れる夜中の気分 立ち昇る狼煙のごとく葬儀屋の建物がまた軒を閉じゐる 人間の家が心のなかになくきみのことばに滅ぶ祝祭 色が迸る 輪郭を突き破っては光り…
失墜の時間 * ふとおもう冷戦だけが温かい戦後に生きる戸惑いの眼 みな底の女がひとり読書する固茹で卵の戦後史などを ふりかえる子供のひとりいくつかの量子学など忘れてしまう 揚力のちがいのなかでまざまざとひきさかれたるわれの翅は 流体が墜落してる…
* たがいの皮膚を確かめ合うように日暮れの街で巡り会うとき いささかの惑いもなしにくちづけをする若人のかげを横切る なべてなお花が明るいわけをいま話しましょうとナイフをかざす 迷い子も星の隠語になりゆける天文学の裏地の科白 かげはやさしく月は照…
たがいの皮膚を確かめ合うように日暮れの街で巡り会うとき いささかの惑いもなしにくちづけをする若人のかげを横切る なべてなお花が明るいわけをいま話しましょうとナイフをかざす 迷い子も星の隠語になりゆける天文学の裏地の科白 かげはやさしく月は照る…
ヨナが啼く湖水のうえの月あかりいま語りたる出イスラエル 死がいまだ経験ならず機関手の手袋ひとつ星に盗らるる 朝来れば天体模型消えゆけり煙だらけの窓がささやく オリーヴの罐詰めひとつ破裂する銀河の果ての汐のかおりよ 金星の眠れる真午てのひらの陽…
* バロウズの酔夢のうちに横たわるおれの余生のカットアップは 塒なく地上をわれの巣と見做す老夫もあらじ秋の地平よ かぎりなくヤヘクの夢を見るときのアジア革命ひとり眺むる 呼ぶ声もなくて寝床に眼を醒ますヘロイン切れの酔い覚めの寂しさ わがうちのin…
秋声のうちにおのれを閉じ込めてつぎのよるべの夜を占う 道を失う ひとの姿をした夜を突き飛ばしてまた朝が来る なぜだろう どうしてだろう わからない蟻の巣穴に零す砂糖よ みながみなわれを蔑して去ってゆくこの方程式の解とはなんぞ 旅を夢想する儚さよた…
ひとりのみはぐれて歩む道ならん逆さにゆらる空中ブランコ さみしいといえぬわが身の刹那すら春の空気が洗う午後かな くちぐせになりしなまえを忘れたく夜のむこうへ「さよならユカコ」 ビロードのようなまなざしひるがえる真昼の夢の足跡あって 横たわる三…
うつし世にきみがなからば草もなし夜の点火をすべて消す2時 ひとめすら逢わぬひとこそおもいたる月の枯れゆく秋の終わりに 秋驟の余り字あればかのひとの墓にむかって静かに投げよ 夢在らばわれらが詩人幸あれと願い眠れる時計問屋は ゆれる葉のいつわりば…
なまぐさき死せる魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら秋…
天籟とピンボール * 獅子神の蹄のあとに咲き誇る花があるらし血の匂いする やまなみに融けるものみなすべて秋暮れてたちまち花かげもなく 社会性なきゆえわれに降りかかるプレヴェールの枯れ葉のあまた 自裁ならずして存ることのなさけなさか道失えるきみ …
ぼくらが幽霊になるまでに 捧げられたものと与えるものの区別がつかないままで、 ぼくは語って、きみは答えた、のはぜんぶがぜんぶ正解じゃないから なにものともつかない悪夢を乗せて亡霊がインターステイツを走る あかときのまぼろしみたいなかたちでもっ…
* くちびるの薄き女が立ちあがる空港行きのライナーのまえ 夏終わる金魚の群れの死するまで鰭濁るまで語る悲歌なし もしぼくがぼくでないならそれでよし住民票の写しを貰う 悲しみが澱むまでには乗るだろう17系統のバスはまだ来ず ひぐらしも聞えて来ないゆ…
* 泣きそうな顔で見つめる 西陽にはきみの知らない情景がある 汗の染むシャツの襟ぐり 指でもてなぞるたえまない陽の光りのなかで きのうとはちがうひとだね きみがまた変身してる九月の終わり 涙顔するはきのうのきみのはず いてもたってもいられぬ孤独 探…
* 弔いの花はなかりき棺さえ枯れた地面に置かれ朽ちたり ぼくばかりが遠ざかるなり道はずれいま一輪の花を咥える 痛みとは永久の慰みいくつかの道路標識狂いたるかな ことばなきわたし語りがときを成すいずれ寂しきわれらの夜に 発語する勇気もなくて立ち去…
* たそがれの一群われのかげを過ぐ黄昏色の月曜のなか 秋来たり水辺に群れる鳥ありていままたひとつペン軸失くす ためらいのなかに小さな家族棲むいつかのような無表情で かたときも手放せずにおられぬと帽子を掴む秋の茫洋 それがまだわからずにておらえれ…
* 雲澱む雨の予感のなかにさえ慄いてゐる三輪車たち さよならといえば口まで苦くなる彼方のひとの呼び声はなし カリンバを弾く指もて愛撫するわが身のうちのきみの左手 ゆうづきの充ちる水桶ゆれながらわれを誘う午後の失意よ 手鏡を失う真夏・地下鉄の3番…
* モリッシーのごと花束をふりまわせ夏盛りぬときの庵に 待つひともなくて広場に佇める地上のひとよわれも寂しい 蝶服記ひとり観るなり眼病のおもいでなどはわれになかれど ものもらいおもいにふける金色のゆうぐれなどはここにはあらじ いちじつの終わり来…
* 指で以て詩を確かめる未明にてレモンピールを浮かべたそらよ 手慰む詩集の幾多ひらげては撃墜されし雷雲を追う 夢のなかに愛しきものはありはせず河の流れが頭を伝う 荒れ地にて花を植えたり詩語などつつしみながら丘を下れり 待っている 果樹園にただ燈…
* 毀れやすき殻のうちにて閉じこもる卵男のような少年 箒すら刑具おもわす蒼穹≪あおぞら≫に逆立つ藁の幾本を抜く 幻蝕のさなかの夜をおもいだすたとえば青いライトのなかで 街かたむきつつあり寝台のうえにおかれた上着が落ちる 菊よりも苦き涙よ零れ落ちや…
* 雷鳴のとどく場所まで駈けてゆく光りのなかの愉しい家族 待つ男 笑う価値さえないおれのこころの澱をいま立ち上がる 駅じゅうにおなじ女が立ちふさぐ地上に愛のなきことに啼き 友だちがいるならいずれわが骨を拾わすといいてひとりの夏 隠さないで──きみ…
* 夜なべてほむらをかこむきみのためくべる夏の樹燃え落ちるまで 風景論なくば真夏の太陽を力点としてカンバスを放て すべての朝のためにできるのはきみのため息燃やすことのみ やがてまたぼくが終わろうとする夜に蝉のぬけがら一切を拒む なが夢のさなかに…
* 寺山短歌からの離乳が現時点での目標だ。いままで耽溺して来た世界からの離郷こそが鍵のような気がしている。多くの時間を前衛短歌の模倣のために過ごしてきたが、ここらへんで変転を遂げねばならない。といわけで前作からつづけて意識的に寺山式の詠みか…
* 夏の嵐 かぜにまぎれて去るひとかげを追っていまだ正体もなく たれゆえに叫ばんか夏草の枯るるところまで歩めるわれは 浴槽が充ちる早さで夜が凪ぐ嵐のあとの傍白を聴け なにもかもが淡いよ夏のかげろうの辻をひとりで帰る足許 '90sを歩いたぼくら 庭先の…
* ふたつきも遅れて知れりマーク・スチュワートの死などをおもうわれの六月 かつてまだ清きわれなどありはせず水桶ひとつ枯れて立つのみ 大粒の汗ながれたりおもづらに不安が充ちる拳闘士かな 別離のほかに道などあらず静脈の畔に集う農夫のふたり うすらび…
* 旅に酔うわれの頭蓋を飛びながら夏を知らせる雲の分裂 寂しさを指折りかぞえ駅まえの自販機のみに告げる憂愁 苦悩とは愚者の涙か森に立つ告白以前の影法師たち 雨がいう──おまえは隠者 かたわらに水を抱えて眠る仔牛よ わが魂の未明を照らす犀おれば祈り…
* 人間という病いは癒えず真夜中の修辞のひとついま見失う 雨季来たり帽子の比喩を探さんとするに紫陽花暗し 道わずか残して来たり夕月のもっとも高き空を見上ぐる わが過去の贖い終えていつの世か役目を終えて退場するか なにもかもさかりを過ぎて萎れゆく…