短歌日記67

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 くちびるの薄き女が立ちあがる空港行きのライナーのまえ



 夏終わる金魚の群れの死するまで鰭濁るまで語る悲歌なし



 もしぼくがぼくでないならそれでよし住民票の写しを貰う



 悲しみが澱むまでには乗るだろう17系統のバスはまだ来ず



 ひぐらしも聞えて来ないゆうぐれの最初の合図きみ送らず



 遠からずぼくが不在になる席にきみが坐ればそれでよしかな



 空転すタイヤ啼きおりトラックのうしろ姿がむなしい夕べ



 敵を愛す心もあらずいつわりの手ばかりうごく月曜の夜



 よすがなどなくてひとつの花を折るてごころもない九月のおれ



 よこがおのするどき真夏終えて来てひとり慰む第二芸術



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○歌論のためのノート

 

 文学フリマが終わってふつかも経っているが、いまだに失意が拭えない。あれほどのひとがあっても見向きもされない短歌というジャンル。それを継続することにややためらいができてしまった。快復のためになにかべつのものでも書こうとおもう。

 

2023年9月12日