2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記18

* われのみがひととはぐれて歩きだす初夏の光りの匂いのなかで ものがみな譬えのように動きだす暗喩溶けだす午前三時よ それまでがうそのようだとかの女がいうわれら互いに疑りながら つぎの人生あればたぶんきみを知らずに埋もれていたい うそばっかりで終…

短歌日記17

* まさにいま風に葬られてゆくさまを叙述するのみ 風葬序説 からっぽの世界のなかで愛されて虚しさなどを具象する夜 駅いずれ世界の果てに残されて地下道孤児の群れに流れる 水色のからすの一羽泣き誇るあしたの意味をいまだに知らず 海ひとつ心に持てばやす…

短歌日記16

* 連動する地獄の筵たなびいていままさに詠まれる夕べ やらず至らず試みずやがて溶けゆく意志たちのいま 水色の水充ちたればささやかな宴をともす深夜の酒席 心あらずも美しくあれ如雨露の水が降りそそぐごと 詩画集のなかに埋もれてゆく景色まだ一切を諦め…

短歌日記15

* わが春の死後を切なくみどりなす地平の匂いいま過ぎ去りぬ 感傷の色を数えるだれがまだぼくを信じているかとおもい 遠ざかるおもかげばかり道化師の化粧が落ちる春の終焉 夏の兆しあるいは死語のつらなりにわれが捧げる幾多の詩集 わがうちにそそり立つ木…

短歌日記14

* 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる 陽当たりにトマト缶ひとついまだ未来を信じ…

短歌日記13

* 同志不在なり萌えながら立つみどりたちやけに眩しく 地図上を旅する蟻よ思想なき犯意のなかのわれらが国家 期してまだ挑むことさえできぬまま遠くの海の潮騒やまず 鳥籠のかげが寂しくほぐれゆく夕暮れどきの落胆ばかり 監獄に夏蝶ひとつ放たれてわれは呼…

短歌日記12

* ウォーホルの原色 死を孕む街のうらがわの果実なりき 葡萄食む子供の眸潤むなりわれは孤立を少し癒すか 荼毘に付すわが青春の一切をそを赦すものあれど 吹きよどむかぜのむこうに一輪の町が咲いている夜半 水中花もやがて腐れるゆらめきのなかに消えゆく…

短歌日記11

* ものがみな荒野の譬え 亡霊の数え歌のみわれに聞ゆ 姿なき星の戦慄 臨終のひとのまぶちに落ちろ 落ちろ 転生の寂しき初夏よかげの濃い子供のひとり丘へ駈け入る 教会の裏手でひとり酒を呑む正午の鐘のゆすぶるなかで しりとりの鳥の一羽を逃したる直角の…

短歌日記10

* ことばなき骸の帰還御旗ふる男の腕がわずかに震るる もしやまだ花が咲いては切られゆくこの悔しみになまえを与う 水温む五月のみどり手配師がわれを慰む花もどきかな 真夜中の歯痛のなかで懐いだす星の彼方のささやきなどを 呼び声のなきままひとり残され…