短歌日記14


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 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ


 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴


 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ


 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる


 陽当たりにトマト缶ひとついまだ未来を信じる切なさ


 かげさえも遠ざかるなり週末の女のひとり翅をふるわす


 やわらかき胸してきみを訪ねゆく河面に夕陽落ちたる頃に


 ときとしてものみな遠くかすむかなみどりのなかの紫陽花なども


 水走る犬の眸にさかる陽よ物狂いするけものの躍動


 約束の土地はあらずや夢の街だれも知らない町を求める


 この夜の上流だれもいない室いつかの唄をまだくりかえす


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