2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

鴎の画

狐火に降る雨寒夜男来ぬ 飛びかたはなめらかならず鴎の画 画のうちの木工ひとり休息なし 古本と少女はひとつ過ぐ冬の 初冬の男たずさう表紙絵は時化て 灯火のいろいろのみか画面の都市 凪失わば飛ぶそらあらず一羽の青年 飛ぶそらもあらず精神病棟の冬 おも…

れもんの若い木々

れもんの若い木々 * 初秋だった。北部の田舎からでて、金が尽きてしまい、更生センターで寝てた。『ブルックリン最終出口』を読みながら。そこでは夕方の5時から朝の8時まで泊めてくれる。駅のすぐそばにあって、建物は小さいけど、心地よい清潔さがあっ…

旅路は美しく、旅人は善良だというのに(2/2)

* 初夏の夜だ。呑み屋通りを抜けて大きな本屋のまえへでた。ひと待ち顔の群れむれがやかましい。円柱のでっかい広告。派手なべべを着た女に表情なしでプロバイダを奨められた。その胸に手を当ててみたい。いつか、あれのねたに使おう。またふたりしてポケッ…

旅路は美しく、旅人は善良だというのに(1/2)

旅路は美しく、旅人は善良だというのに * カウンター席に座って、横の止まり木を見る。小さな紙切れが名札のように貼ってあった。たしか、こんなふうなことが書かれてあったとおもう。――ふたりの少年がやってきて、おれのことで妹をつかまえていった。だか…

をとこ来ぬ

ふなかげの淡さの陽炎午睡して 踏む浪や月のかたちに触るるまで 夏の夜に灯台守が泳ぎ着く 海見ては孤独のありか確かむる 廃屋の佇む秋よ尻屋崎 朽ちる家営みもまた暮るるのみ 去るときを地平のなかの棟とせる わがうちの愛猫秋の茎を咬む 冬瓜のあばらに游…

倉庫街のタンゴ

倉庫街のタンゴ ベルが耳をつん裂くようにけたたましく十秒ほど鳴って、止まる。 サミュエル・ベケット『しあわせな日々』 * 照明器具 入出庫作業 在庫整理 ピッキング 派遣からの正社員登用アリ──求人広告 * かれにとっていまいましい月曜日の、早い時間…

38w

かつてのひところはたのしかったものだ いまだっておそらく やまなすびや けむりきのこが わたしのともだちに ちがいない あるいはやっては来ないみどりのからすのようなもの いなくなったのはわたしのほうだ どの路次をかよっていようが はらからもなく は…

わが長篇小説に寄せる詩篇

裏庭日記 われわれという辞がいやで、つねに単数形で生きてきた なにをかたるにもひとつに限定してからでなければ安心できない おれたちや、ぼくらといった主語を憎み、空中爆破したくなる おれは決しておれたちじゃないし、 おれは決してぼくにならない あ…

光りになれない。

夢の時間も砂嵐のなかに消えてしまうだろう そんなテレビジョンの懐いでのなかで 光りになれなかったひとたちと 一緒の場所で出遭ったのは 真昼の淡い幻想だった いまだほんものの喜びが見えない劇場の舞台で、 おれはなんだか酔っ払ったように手紙を書いて…

金魚

真夜中じゅうずっと悲しいニュースや情勢に耳をかたむける おれの辞書にだれかが書き加えた永遠のせいで、 眠ることもできないから 雨が降りやんだ、その沈黙を だれかがやぶって来るのを期待しながら やはりだれも来ないのだという予感 愛のないまなざしを…

surely          

だれのものでもない両手で だれかを傷つける 呼び鈴がおれの耳に 爆発している やり過ごすことのできない咎に身をふるわせて やはりだれも おれを諒解しないというところで 合点する 他人の顔に鉈を下ろして、 それでもだれに気づかれないままで終わる きょ…

憐れなるもの あるいは「おれはイアン・カーティスのものまねに過ぎない」。

深夜、たったひとりでイアン・カーティスのものまねを踊っていたら、 朝になって苦情の電話が管理会社からかかりやがった バリトンで吼えながら、「残虐博覧会」はまずかったんだ せめて「死せる魂」にするべきだった イアンを身ぶり、手ぶりするのは危ない…

Psyco killer

リナ・サワヤマのNME最新記事、トーキングヘッズ、ザ・ポップグループを片手に 芝の泥濘みにつまづいてふりかえったときには きみの寝室から火の手があがっていたんだ おれにはよくわからない おれのことぜんぶが やがてサイレンが迫るなかで、 電気工作の授…

映画『PERFECT DAYS』──あるいは安全なる賭け

ヴィム・ヴェンダース監督はあるインタビューのなかで、本作の主人公・平山を僧侶に喩えている。宗教世界の求道者としての人間と、世俗世界での労働者を混同した件の表現には違和感しかなかった。インタビューそのものは作品の理解を助けてくれるという意味…

週明け

シルヴィア・プラスの遺体写真を眺めながら昼餉を片づけていた ガス・オーブンに突っ込まれたかの女の上半身、 死の直前に最高のユーモアを発揮したという、 モリッシーの言葉を懐いだす おれにとっての『ベル・ジャー』はいまだ いまだ見えないままで 遙か…

赤い柄の鋏

はずんだ綿パンの臀が木の向こうに沈んでいく 赤い柄の鋏をもって姉は花狩り 嵐の翌日に万物はゆるみきって ところどころ溶けている 濡れているものはどれもこれもイヤラシイ 妹たちは犬の散歩に頑としていこうとしない そのいっぽうで遭難者たちは 夕までに…

ふたたび去つていくものは

少しずつひらかれるまなこを ふたたび去つていくものは 手のひらへ あるいは風のなかへ落ち 現れてくるのは青と黄の格子 二月のかもめがゆつくりとかすめ あらたな軌道を知らす これが朝なのか夜なのかもわからず きゅうにかれが立ちあがると 見知らぬひとび…

速度狂

詩に感傷も美しさももういらない そんなものはおやじやおふくろにぬりたくって 臑を齧るときに使えばいい ねぐらでダサい文学青年きどりよ、土台 きみはことばを定規で測れても 感情をことばになんかできまいよ 感情そのものが足りないのだ いついつまでもひ…

広告

11月2日『産経新聞』夕刊、「第三文明」および「文芸社」の広告より つまらない室の まつたくつまらない夜 ふたつの新聞広告を見ていて それもくだらない ことなのに眠れないあたま が長い時間を与えられたために 考えさせられる たとえばこれ── 人類にとつ…

脅迫者

どうもよく その景色が 現れててこない窓 がある──まるで普通の慣らされた区域 そのはじめにはいつも うそが長椅子を充たして 大いなる眠り The Big sleep を特製品に 飾り 立てている 二十三のみぎり そこでおれ はそいつの顔を じつと見ていたっけ? でか…