2022-01-01から1年間の記事一覧

短歌日記42

* 水色のゆうぐればかりひとりのみクリームソーダを飲み終わりたり いくつかの木片ひろうくべる火を持たぬわが身の寂しさゆえに 言葉とて秩序に過ぎぬ 悪霊は百科事典のなかに棲むなり 陽だまりに冬日が落ちる真四角の空を抱いて飛ぶ天使たち 静寂も燃ゆる…

短歌日記41

* 暗がりの道で迷子にならぬようきみの手を引く幽霊の声 時にまたひとり裁かれながら立つ図書館まえの駅の群衆 チョコレートバー淋しく齧る午后の陽よいまだなにも了解せず 秋の水光れるなかを走り来て憂いを語る少年もゐる ジューサーのなかの果肉が踊りだ…

短歌日記40

* 愛されてゐしやとおもう牧羊の眼のひとついま裏返る 流されて種子の絶滅見送れば秋の色さえ透き通るかな 足許を漂う季節いつかまた看板ひとつ降ろされてゐる 涙とは海の暗喩か岩場にて蟹の死骸を見つむる午後よ さらばさらばよ石くれの硬さをおもうわれの…

短歌日記39

* ゆかしめよ時のはざまにそよぎつつ眠れぬ夜を戦う花と わがための夢にはあらじ秋口の河を流れる妬心の一語 男歌かぞえる指に陽が刺さるゆうぐれどきのあこがれのなか けだしひとはうつろいながらうろ叩くやがて来たりぬ夢の涯まで つかのまの休息ありて汗…

短歌日記38

* 刈りがたしおもいもありぬ秋来る颱風過ぎてすがしい原っぱ みずいろの兎が跳ねる 妬心とはまだ見ぬきみにたじろぐ時間 神さまがくれたクレヨンなどといいぼくを欺く女学生たち 波たゆるいつかの秋がぎらぎらと迫り来るなり男の内部 姿鏡あり浮かべてわれ…

短歌日記37

* 子羊のような贄欲す朝ならばわれを吊るせと叫ぶ兄たち 踏み切りに光りが滅ぶ列車来て遮られてしまうすべてが かつてまだ恋を知らないときにただもどりたいとはいえぬ残暑がつづく 会わずして十年経ちしいもうとの貌など忘るつかのまの夢 よるべなどなくて…

短歌日記36

* 水匂う両手のなかの海さえも漣打ってやがて涸れゆく まだきみを怒らせてゐるぼくだから夏鈴のひとつ土に葬る もはや兄ですら弟ですらないぼくが父母ない街ひとつを愛す 生きるかぎりに於いてもはや交わさぬ契りを棄てる いまはもうだめにしてくれ丸太積む…

短歌日記35

* 来るたびにきみを眩しむ秋の陽の干割れた壁をひとり匿う 祖母死せり灸の痕を撫でながらわが指のさみしさおもう わらべらの声掻き消され一瞬の夏休みすらいまはむなしく 駅舎にてまぎれて叫ぶ男ありわれと重なる九月来たりて 上映せり夏の黄昏まざまざと復…

短歌日記34

* 清らかな家政学科よ乙女らの制服少し汚れてゐたり 史を読むひとりがおりぬ図書館の尤も暗い廊下を走る 国燃ゆるニュース静かに流れたり受付台のうえの画面よ たゆたえば死すらもやさしみながみな健やかにさえおもえる夜は 送り火をかぞえる夜よ魂しいが焔…

短歌日記33

* みずからの両手を捧ぐあえかなる南空のむこうガラスがわれる 夏跨ぐ熊多岐暑し森閑のなかを歩みて望む才覚 ひとがみな偉くおもえて室に立つ水一杯のコップを握る 彼方より星降る夜よバス停に天使のひとり堕落してゐる 夏しぐれ掴みそこねた手のひらを求め…

短歌日記32

* 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな 野焼きする意識の流れしたためる秋の化身の夜の呼び声 流れすら朝のまじない眼醒めては夢の小舟を放つ潮騒 あきらめてあやめの花を剪る…

短歌日記31

* 波踊る 真午の月のおもかげがわずかに残る水のしぶきよ 友なくば花を植わえというきみのまなこのなかにわれはあらずや 星の降る夜はありしや金色の糸巻き鳴れりねごとのごとく 雨を待つひと日は室のくらがりにわれは眠れる幼子のごと プラスチック甘噛み…

短歌日記30

* 水運ぶ人夫のひとりすれちがう道路改修工事の真午 からす飛ぶみながちがった顔をして歩道橋にて立ちどまるなり アカシアの花のなかにて眠るとき人身事故の報せを聴けり 夏蜜柑転がしながら暮れを待つ海岸線は終日無人 もしきみがぼくに呼吸をあわせれば実…

短歌日記29

* 鶫すら遠ざかるなりかげはみな冷たい頬に聖痕残す 悲しけれ河を漂う夢にすら游びあらずや陽はかげりたる 寂しかれゆうべの鍋を眺めやる もしや失くせし望みあるかと ぼくを裁く砂漠地帯の官吏らがミートボールに洗礼をす 夜はブルーまたもブルーに染めら…

短歌日記28

* 子供らに示す麦穂の明るさはたとえば金の皮衣なり 遠ざかるおもかげばかり胸を掻く溢れんばかり漆の汁よ かなたなる蛮声いつか聞ゆるにわれの野性が眼醒めたりゆく きみがいい きみがきみであるならばかつてのわれに否と告げたり たとえむこうにきみがい…

短歌日記27

* ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを殴ます だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りてわれ待つ ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに 天使降りる土地の主人をまざまざと照らす光臨あざけりやまず 車座の僧侶の群…

短歌日記26

* 招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔 草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ 告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を 熱帯魚泳ぐ夏…

短歌日記25

* 地の糧もなくて窮するひとりのみ草掻き分けて見知らぬ土地へ やがて知る花のなまえを葬ればとりわけ夜が明るくなりぬ ふりむきざまにきみをなぐさむ窓さえも光り失う午後の憧憬 たとえれば葡萄の果肉 季節とはわれを分割する鏡 星幾多あればわたしを解き…

短歌日記24

* 戦つづく骸のなかのおもいではピースサインのかく存るゆうべ 流れては消ゆるものこそ尊しと河辺の花をちぎって游ぶ いまさらにおもいでなどと呼ぶ刹那 冷凍庫に隠したるかな 彼方より流れ星かな一筋のなみだのようなきらめきありぬ ぼくがまだ生きてゐる…

短歌日記23

* 紫陽花暗し夏のまえぶれおれの手が汚れながらに握る花びら 声あればふりむくときよ顔がまたちがったように見えるゆうぐれ 光りあれ 取り残された路地裏でつぎの出会いを待つは朝どき しぐれゆく街の時間よまざまざとひとの内部を照らす雨粒 凋れゆく花の…

短歌日記22

* 絶つ定め あるいは祝賀歌いたる余生のなかの雁の鳴き声 身を放つ 窓の眺めが光りする、いつかのような死へのあこがれ きょうもまたさよならする両手 幽かなひとのかげまだ残る 車蜻蛉・アンドロメダよ銀河するおれの永遠曝す午後2時 時と時の硲よ いまだ…

短歌日記21

* この闇がぼくに赦せるものをみな運び揚げてはゆれる舟たち 夏来る山脈遠くかすみつつ胸のなかにて熟れる韜晦 さようなら彼方のひとよいつの日か花の匂いに眼醒めるときは 窓際の一羽のからす ほんとうは隠しごとなどしたくはなかった たわむれた過去のおも…

短歌日記20

* 記録図譜あるいは願い燃えあぐる荒れ野の果ての儚い夢よ 声聞ゆ学び舎寂し建築はあまねく過去を思い起さん 夏の日の真昼の幽霊 足許を照らす陽射しが猶も寂しく 対向する光りのなかをさまざまな過去が揺れてるわたしの現実 カラー喪失する夜半「シャッタ…

短歌日記18

* われのみがひととはぐれて歩きだす初夏の光りの匂いのなかで ものがみな譬えのように動きだす暗喩溶けだす午前三時よ それまでがうそのようだとかの女がいうわれら互いに疑りながら つぎの人生あればたぶんきみを知らずに埋もれていたい うそばっかりで終…

短歌日記17

* まさにいま風に葬られてゆくさまを叙述するのみ 風葬序説 からっぽの世界のなかで愛されて虚しさなどを具象する夜 駅いずれ世界の果てに残されて地下道孤児の群れに流れる 水色のからすの一羽泣き誇るあしたの意味をいまだに知らず 海ひとつ心に持てばやす…

短歌日記16

* 連動する地獄の筵たなびいていままさに詠まれる夕べ やらず至らず試みずやがて溶けゆく意志たちのいま 水色の水充ちたればささやかな宴をともす深夜の酒席 心あらずも美しくあれ如雨露の水が降りそそぐごと 詩画集のなかに埋もれてゆく景色まだ一切を諦め…

短歌日記15

* わが春の死後を切なくみどりなす地平の匂いいま過ぎ去りぬ 感傷の色を数えるだれがまだぼくを信じているかとおもい 遠ざかるおもかげばかり道化師の化粧が落ちる春の終焉 夏の兆しあるいは死語のつらなりにわれが捧げる幾多の詩集 わがうちにそそり立つ木…

短歌日記14

* 垂乳根の母などおらず贋金のうらの指紋を眺むる夜よ 童貞の夏をおもいしひとときが飛行機雲となる快晴 水盥茎を濡らして終わりゆく五月の空をしばらく見つむ 父死なば終わるのかわが業も テーブルに果実転がる 陽当たりにトマト缶ひとついまだ未来を信じ…

短歌日記13

* 同志不在なり萌えながら立つみどりたちやけに眩しく 地図上を旅する蟻よ思想なき犯意のなかのわれらが国家 期してまだ挑むことさえできぬまま遠くの海の潮騒やまず 鳥籠のかげが寂しくほぐれゆく夕暮れどきの落胆ばかり 監獄に夏蝶ひとつ放たれてわれは呼…

短歌日記12

* ウォーホルの原色 死を孕む街のうらがわの果実なりき 葡萄食む子供の眸潤むなりわれは孤立を少し癒すか 荼毘に付すわが青春の一切をそを赦すものあれど 吹きよどむかぜのむこうに一輪の町が咲いている夜半 水中花もやがて腐れるゆらめきのなかに消えゆく…