短歌日記27

 

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 ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを殴ます


 だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りてわれ待つ


 ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに


 天使降りる土地の主人をまざまざと照らす光臨あざけりやまず


 車座の僧侶の群れが笑いだす回転式の御堂の昏さ


 知ってゐたぼくがひとりでゐるわけを いまは果敢ない林檎のかけら


 燕麦の滾る昼餉よ猫舌の最後のひとり匙を投げたり


 たしかさがわれらをわかつ夏の夜の燃ゆる竈に本を棄てたり


 涕あれ たとえわずかな愛さえも頬を濡らさず終わるものかと


 ゆくたびにちがった顔がわれとなる やがて消えゆくわれの星蝕


 時雨てはわが妹の半身を濡らす神あり 呪わば奪え


 妹の髪が逆巻く夏の夜 水汲みながらお伽を伝う


 妹の枕話よ永久というまがいものなど滅ぼしたりぬ


 生きて猶やさしくなれぬゆえにいま水疱瘡のおもいで語る


 遠き日の姉の再婚・金色の沼をば欲すわれの愛憎


 暮れる陽をもてあましたり一日は囃子のごとく過ぎてゆきたり


 ともにゆくつれあいあらず独身の発芽物質を持ち歩くなり


 「燃ゆる母」宗左近の詩を読みし青年の日をわれは羨む


 茗荷刻む 夜は暑さのなかにありやがて心に固着するかな


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