2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記76

たがいの皮膚を確かめ合うように日暮れの街で巡り会うとき いささかの惑いもなしにくちづけをする若人のかげを横切る なべてなお花が明るいわけをいま話しましょうとナイフをかざす 迷い子も星の隠語になりゆける天文学の裏地の科白 かげはやさしく月は照る…

短歌日記75

ヨナが啼く湖水のうえの月あかりいま語りたる出イスラエル 死がいまだ経験ならず機関手の手袋ひとつ星に盗らるる 朝来れば天体模型消えゆけり煙だらけの窓がささやく オリーヴの罐詰めひとつ破裂する銀河の果ての汐のかおりよ 金星の眠れる真午てのひらの陽…

短歌日記74

* バロウズの酔夢のうちに横たわるおれの余生のカットアップは 塒なく地上をわれの巣と見做す老夫もあらじ秋の地平よ かぎりなくヤヘクの夢を見るときのアジア革命ひとり眺むる 呼ぶ声もなくて寝床に眼を醒ますヘロイン切れの酔い覚めの寂しさ わがうちのin…

短歌日記73

秋声のうちにおのれを閉じ込めてつぎのよるべの夜を占う 道を失う ひとの姿をした夜を突き飛ばしてまた朝が来る なぜだろう どうしてだろう わからない蟻の巣穴に零す砂糖よ みながみなわれを蔑して去ってゆくこの方程式の解とはなんぞ 旅を夢想する儚さよた…

短歌日記72

ひとりのみはぐれて歩む道ならん逆さにゆらる空中ブランコ さみしいといえぬわが身の刹那すら春の空気が洗う午後かな くちぐせになりしなまえを忘れたく夜のむこうへ「さよならユカコ」 ビロードのようなまなざしひるがえる真昼の夢の足跡あって 横たわる三…

短歌日記71

うつし世にきみがなからば草もなし夜の点火をすべて消す2時 ひとめすら逢わぬひとこそおもいたる月の枯れゆく秋の終わりに 秋驟の余り字あればかのひとの墓にむかって静かに投げよ 夢在らばわれらが詩人幸あれと願い眠れる時計問屋は ゆれる葉のいつわりば…

短歌日記70

なまぐさき死せる魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら秋…

短歌日記69

天籟とピンボール * 獅子神の蹄のあとに咲き誇る花があるらし血の匂いする やまなみに融けるものみなすべて秋暮れてたちまち花かげもなく 社会性なきゆえわれに降りかかるプレヴェールの枯れ葉のあまた 自裁ならずして存ることのなさけなさか道失えるきみ …

短歌日記68

ぼくらが幽霊になるまでに 捧げられたものと与えるものの区別がつかないままで、 ぼくは語って、きみは答えた、のはぜんぶがぜんぶ正解じゃないから なにものともつかない悪夢を乗せて亡霊がインターステイツを走る あかときのまぼろしみたいなかたちでもっ…

短歌日記67

* くちびるの薄き女が立ちあがる空港行きのライナーのまえ 夏終わる金魚の群れの死するまで鰭濁るまで語る悲歌なし もしぼくがぼくでないならそれでよし住民票の写しを貰う 悲しみが澱むまでには乗るだろう17系統のバスはまだ来ず ひぐらしも聞えて来ないゆ…

短歌日記66

* 泣きそうな顔で見つめる 西陽にはきみの知らない情景がある 汗の染むシャツの襟ぐり 指でもてなぞるたえまない陽の光りのなかで きのうとはちがうひとだね きみがまた変身してる九月の終わり 涙顔するはきのうのきみのはず いてもたってもいられぬ孤独 探…

短歌日記65

* 弔いの花はなかりき棺さえ枯れた地面に置かれ朽ちたり ぼくばかりが遠ざかるなり道はずれいま一輪の花を咥える 痛みとは永久の慰みいくつかの道路標識狂いたるかな ことばなきわたし語りがときを成すいずれ寂しきわれらの夜に 発語する勇気もなくて立ち去…

短歌日記64

* たそがれの一群われのかげを過ぐ黄昏色の月曜のなか 秋来たり水辺に群れる鳥ありていままたひとつペン軸失くす ためらいのなかに小さな家族棲むいつかのような無表情で かたときも手放せずにおられぬと帽子を掴む秋の茫洋 それがまだわからずにておらえれ…