2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記9

* 黄昏よなべものみなうつくしく斃れるばかり 長距離の選手たち みどりなるひびきをもってゆれる葉をちぎっては占うなにを あかときの列車のなかに押し込まる自殺志願のひとの横顔 花が咲いて 散るもの知らず故知らず ほらもうじき雨季来る 枯れる湖水 もは…

短歌日記8

まくらことば * あからひく皮膚の乾きよ寂滅の夜が明くのを待つ五月 茜差すきみのおもざし見蕩れてはいずれわかれの兆しも見ゆる 秋津島やまとの国の没落をしずかに嗤う求人広告 朝霜の消るさま見つむきみがまだ大人になり切れない時分 葦田鶴の啼く声ばか…

短歌日記7

* 真夜中の菜の花畑が帯電す 手を伸ばしてはいけないところ 初夏の水いずれは枯るる花とてもいまはわたしを見つむるばかり やがて夏来るときわれは瑠璃色の西瓜のごとく糖蜜を抱く 死んだものさえも愛しくなりぬ五月のみどりかけぬけてゆき 苦しまぎれのう…

短歌日記6

* かげを掘る 道はくれないおれたちはまだ見ぬ花の意味を憶える 眠れ 眠れ 子供ら眠れ 日盛りに夏の予感を遠く見ている プラタナス愛の兆しに醒めながらわがゆく道に立つは春雨 祖母の死よ 遠く眠れる骨壺にわが指紋見つかりき 葡萄の実が爆発する夜 ふいに…

短歌日記5‐pt.2

* 子供服婦人用品深緑いつかの憂い現実となり 旅枕玻璃戸のなかに父母たちの悪霊ばかり見し夜よ くれないのまんこ閃く花の蜜滴りながらやさしく嗤う 天秤のうえを切なくゆれる石わが魂しいの代わりなりたり 草原に馬が一頭走るなかソーダ水の泡が消えゆく …

短歌日記5‐pt.1

* 忘るたび立ち現るる初恋のひとのうしろをしばらく見つむ 凱歌鳴る戦のなかを走る子のまざまざしき不安とともに 午睡するわが胸寂しいま深く棺のなかをゆられるばかり 仲の良い友がいるならそれでいい ひとりの日々を過ぎ越しながら 降ればいい 雨粒なども…

短歌日記4

* かたわらに野良を連れたりわれもまたやさしく虚勢はるばかりかな 街歩む青葱色の外套に過去のすべてをまきあげてゆく 装丁家校閲係印刷工作者の悪夢いま売りにでる 狙いなくていま倦みながら白鷺の季節の上を斃れるだけか 風がまだおまえを忘れないのなら…

短歌日記3

花の伝説 * 森深く無名の花があるらしと母の死後にて知るわがひとり 友情論なきまま老いてひとりのみジンジャーエールを飲む夕暮れや ささやかな花のひとつもなき死にて悼むことなし中年の夜 弟の不在の彼方 鞄には失踪宣告の贋物がある わがうちの夢の蒼穹…