短歌日記4

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かたわらに野良を連れたりわれもまたやさしく虚勢はるばかりかな

 

 

街歩む青葱色の外套に過去のすべてをまきあげてゆく

 

 

装丁家校閲係印刷工作者の悪夢いま売りにでる

 

 

狙いなくていま倦みながら白鷺の季節の上を斃れるだけか

 

 

風がまだおまえを忘れないのなら頭上の鐘をいま打ち鳴らせ

 

 

ミラー全集買いに出でて行方不明になりし妹たちの悪霊があり

 

 

固有性失いながら海岸を求めて走る自動車の旅

 

 

忘れてしまおう 恋人たちの胸を焼く鉄砲百合の銃口などは

 

 

銃後にて向日葵が咲く戦いのむなしさなどを嚙みしめるかな

 

 

ためらいのなかの邂逅 春の日の花粉のなかを走る犬たち

 

 

青饅に月夜が滲む春の日の憎しみばかり新しきかな

 

 

石鹸玉 子供が飛ばす休日のもっとも昏い路地裏の果て

 

 

胡葱のような素足でバレイする少女のひとり暗闇に声

 

 

ひとりのみ映画のなかに閉じられて都市の憂鬱と熊穴を出づ

 

 

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