短歌日記6

 

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 かげを掘る 道はくれないおれたちはまだ見ぬ花の意味を憶える


 眠れ 眠れ 子供ら眠れ 日盛りに夏の予感を遠く見ている


 プラタナス愛の兆しに醒めながらわがゆく道に立つは春雨


 祖母の死よ 遠く眠れる骨壺にわが指紋見つかりき


 葡萄の実が爆発する夜 ふいにわが腿のうらにて蜘蛛が這うかな


 数え切れない亡霊とともにフランクル読みし夜


 翳る土地 窪みのなかに立ちながら長い真昼と呼吸を合わす


 中止せる労働争議飯場には怒りのなかの諦めがある


 楽団が砂漠に来るよ町はもう瓦礫のように散らばっている


 供物なき墓を背中に去ってゆく少年たちの歌声ばかり


 オリーブの缶詰ひとつ残されてわれまたひとり孤立を癒す


 悪しき血がわれを流ると大父の言葉を以て出るかな 家を


 さらぬだにかぜのなかにて叫ばしむ 父なるものを憎しめとわれ


 瘤のある人参ならぶ店先にわれはたたずむ 人参のごと


 地下鉄にゆられる少女ためいきがやがて河になり馬になる


 封鎖されし公園金網越しの出会いもなくやがて消えゆく雲井小公園


 右左口の写真のひとつ階段に眠れる坊や、やがて醒めゆく


 夜にまだ玉葱色の月が照るかなえのなかにわれ呼びかける


 岸辺にてきみがいるならわれはただ永久に語れり虚構の歌を


 みなしごのごとくおもうみずからを 親兄弟に絶縁されて

 

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