2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

Culliner Wharf in Heaven

for m 悪夢を謳う儀式をやめられないでいるトラッカーとともに ぼくはモー・タッカーのドラミングを聴いている どうしたものか、かの女が左利きにおもえてしまう さっき尋問のようにつづく高速道路を抜けようとして、 誕生日を失った子供らとともにサービス…

ぼくの電話

ずっとのあいだ、 ぼくの電話は沈黙している 当然だれからも声がかからない だれかがぼくを知っているはずのなに 親しいひとすらもぼくにはない 羽のような塊りが浮遊する午後の窓 電球を数える子供の声がどこからかしている それでもぼくの電話は黙っている…

無題

われわれがうろつくべき路上を夜中探している 沈んだブイがいつまでもある海で ないがしろにされたひとが たちあがってはささやく のはどういった料簡か みずからを見失った体がどこまでも遠い なぜならわたしのないからだにはもはや霊体 がいないから いつ…

「見世物小屋の私生児たち」

産まれてからずっと、 わたしは逃げつづけてきた 幾度もいくども素足で階段を上った あたりまえのことができず、 踊れない腰つきで、 ステップを踏む いくつもの咎を塩素で洗い流し、 見世物小屋の私生児たちを見限った そのつもりできょうまで過ごしてしま…

「孤独のわけまえ」

ロージー・フロストにかかわる男はみんな死ぬ 薬物中毒のかの女はじぶんにかかわる男たちを殺す 兄のハンク以外のすべての男を裏切ってきた 最期には組織の男スコフスキイでさえも 顔ごと吹っ飛ばしてしまった かの女を愛した男はその次の瞬間、心臓を失った…

裏庭日記

われわれという辞がいやで、つねに単数形で生きてきた なにをかたるにもひとつに限定してからでなければ安心できなかった おれたちや、ぼくらといった主語を憎み、空中爆破したくなる おれは決しておれたちじゃないし、 おれは決してぼくにならない あらゆる…

「わが性典」

北畑正人に寄せて 姉と妹を持って生まれたことが不道へのことはじめ おれのさいしょのまちがいは男の遊びを憶えなかったこと 男のなかにおれの仲間を見つけられなかったこと 山口幼稚園での脱走ごっこ ひとり遊びの世界に迷ってしまった身分ゆえに おれには…

feelin' bad blues

田園のなかでギターを鳴らしつづけていた男がふいにうごきをとめ、 河べに立ち、永遠ともおもえる時のなかで鳥を眺めている かれが悲しみの澱みたいにおれには見える それはこの十年ものあいだ眠っていたおれのなかの慈愛みたいなものなのか ともかくおれは…

夏のよるべ

かつて昭和記念公園でわたしは森忠明と歩いていた あじけない夏の夜でしかなかった わたしは先生と話しながら 東京都市の暑さのなかで これからの人生についてみじかい詩句をひねりだそうとしていた 先生はいった、──"帰らぬといえぬわが身の母捨記"って季語…

ムンクの星月夜

さみしさがどうにもならないとき、口のなかで爆発する薄荷飴を数えて、 ひとつの動作から、もうひとつの動作へと移ろう、おれは孤立者 いままであったことのぜんぶ、経験のぜんぶを蔑(みな)すだけで、 たった1日から1週間までが消滅する、おれは孤立者 い…

ぼくらが幽霊になるまで

捧げられたものと与えるものの区別がつかないままで、 ぼくは語って、きみは答えた、のはぜんぶがぜんぶ正解じゃないから なにものともつかない悪夢を乗せて亡霊がインターステイツを走る あかときのまぼろしみたいなかたちでもって説明書を読むとき、 セメ…

たとえば夢が

たとえば夢が足にからみつく整形外科の窓まで 跳びあがるくらいの勢いでおれは此処にやって来た 緑色の玻璃が砕け散った場所までやって来た すべてがそれらしいだけのつくりもの すべてがうわべだけの世界から あなたの心臓を突き抜け やはりだれもおれを理…

友だち

洗いざらしの衣類のなかで、リーバイ・パタの詩画集をひらく 女のいない男がしてやれるのはたったそれだけのこと コインランドリーが不法占拠されてしまう夢を ついさっきまで見ていたんだよ もしきみが電話をかけてくるならば、 ほんの少し孤独を信じられる…

駅にムササビが

駅にムササビがいて、とても迷惑なんです かの女はおれにいった どの駅に? どの駅にもです それでおれは、──といいかけてやめる もはや、かの女の眼におれがいないのを諒解して ちょうど3年まえの秋にもおなじようなことがあった おなじ子供が跡をつけて来…

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コピー用紙のうらに書かれたおれの調書が 夜に発光するさまを12インチのフィルムが捉える ものがみな逆さにされた室で、 朱い内装のなかで男が、 朱いベッドのうえで泣いてる こいつはだれなんだ? やがて男の妻がやつをなだめる 「どうしてなにもかも朱いん…

まちがい

過去を走り去った自動車が、やがて現在へと至る道 それを眺めながら、ぼくは冬を待つ ぼくはかつて寂しかったようにいまも寂しい こんなにもあふれそうなおもいのなかで、 きみのいない街を始終徘徊してるのさ これまでの災禍、そして怒り なにもかもが一切…

暗がりで手を洗う

暗がりでくそをして、 暗がりで手を洗う 洗面台にも、 浴槽にも、 魂しいのおきどころが見当たらない たしかなものはタオルだけで そのタオルもひどく汚れてるのはいったい、 なぜかなのかを思索してる かつて保護房の拘束のさなか、 看護人どもの見守るまえ…

「夢であることの悲しみ」

おそらく、 夢であることの悲しみは だれもない室で展(ひら)いた本みたいなもの 町の中心で戦争が始まったから、 エールとビールを開けて祝福する ひとを憎悪にかりたてるすべてが好きだ でも、これだって夢、じぶんが目醒めてるという夢 囲いと鈎を身につけ…

夜の雷光

夜にさえも見放されて、 飛び起きておもう かつて惹かれた女たちを そしておれをきらった女たちを 氷上の稲妻みたいに去ってしまったなにかが、 おもての車のポーチを照らす いつまでもおれをはなれないかの女らのこと、 眠れないからだが求める、皮膚の安寧…

鮪が赤い。

みささぎにかかる光りかおれたちの過去などまるでなかったみたい きみのゐる場所がわからずアンテナの不安ばかりがつのるゆうぐれ 青騎士のようだとおもう枯れ木すら戦へむかう馬のようだね かのときもおもいでならんゆうづきのかなたにわかれあるのみと識る…