駅にムササビが



 駅にムササビがいて、とても迷惑なんです
 かの女はおれにいった
 どの駅に?
 どの駅にもです
 それでおれは、──といいかけてやめる
 もはや、かの女の眼におれがいないのを諒解して
 ちょうど3年まえの秋にもおなじようなことがあった
 おなじ子供が跡をつけて来るという男がいたっけ
 おれはかれを匿いながら都市と倦怠のあいだを歩き、
 やがて3番出口でかれを見棄てた
 いったい、だれがこんな筋書きを描くのか
 繰り返される運動、そして跳躍するスタントン
 スタントン、あるいは脆弱なラーゲ
 それらがおれになにを与えたか
 ひとは神を創造して苦しみから逃げた
 では神々が逃げるにはいったいなにが必要なのか
 天使は淫売だった、牧師は小児性愛者だった、
 教会は金満家で、お告げは集金マシンだった、
 黒いイエス、黒いノア、そして黒い池田大作そのほか5名
 おれはおれのなかの河に碇を降ろす
 
 駅にムササビがいて、とても迷惑なんです
 かの女はおれにいった
 たしかに迷惑かも知れないけれど、
 おれにはどうだっていい
 かの女を駅員に引き渡して、
 おれは逃げていた
 どの出口にもかの女が立っていた
 逃げ場のない焦りのなかでおれは急ぐ
 なにしろ、この詩形には終わりがないから
 むかし、小学校でいわれたように
 おれの人生はすでに終わっているのかも知れない
 そうおもって公衆電話に駈け込むと、
 救急相談窓口にかけて、
 永遠ともおもわれるあいだ、
 おれはずっとずっと、
 ムササビがいて、とても迷惑なんですと告白する。