猫──あるいはイギリスの夏

 

 レイモンド・チャンドラーの猫はタケというなまえだったのだが、
 来訪するアメリカ人たちの発音によってタキとゆがめられ、
 図らずも、bambooからwater fallへと変身を遂げた
 われわれはなにかを誤解すること、
 おもいちがうことによって、
 世界というものの真に近づくのである

 イギリスの夏は遠い
 手のひらが熱くなる午後の港
 たったいま交わした約束がでたらめだったと
 吐きすてることもできないいまま客船を見送る

 どこにもトポスを持てない、
 われわれの世代
 悲しい一撃を求める孤独の果てで
 われわれはきみをもういちど抱きしめたい
 われわれは猫のなまえのように変容するなにかでしかないのだから