2023-10-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記82

なまぐさき死せる魚を売る店も鱗のなかに紛れん夜よ アキアカネ暁に遇い新しき季節のあいま飛べばあやかし 入り口と出口でがともに繋がるる輪廻のなかの永遠の秋 立樹わる木々のなかにて眠るものみな伐られては竈火となり 遠い夜――火事の報せを聴きながら秋…

短歌日記81

水葬の喇叭の合図おかしみいざないながら骸を放る 天わずか触れる指あり午后はるかひろがるばかり冬のきら星 蝶番喪う夜よ木箱持て歩きさまよう子供たち来る つづきのない夢のなかにて眠れるをいま醒めてゆくかたわらの犬 ひとがみな憑かれて去りし道半ば老…

短歌日記80

発条の不在やひとりかくれんぼ発明以前の愛のまなざし 鏡との婚姻ぼくの手のひらが熱くなるなり ときめきテレパシー 花ひらく 蕚のなかをいま泳ぐ群小詩人と夢の諍い 繭眠る糸の一条われをまだ赦さないかのように搦んで なまえなくひとり不在の花撰ぶ学校花…

短歌日記79

* 日干しする鰯の顔にぎらついたわれが映った両の眼の真昼 それは否 これも否かな ひとびとが遠く離れる夜中の気分 立ち昇る狼煙のごとく葬儀屋の建物がまた軒を閉じゐる 人間の家が心のなかになくきみのことばに滅ぶ祝祭 色が迸る 輪郭を突き破っては光り…

短歌日記78

失墜の時間 * ふとおもう冷戦だけが温かい戦後に生きる戸惑いの眼 みな底の女がひとり読書する固茹で卵の戦後史などを ふりかえる子供のひとりいくつかの量子学など忘れてしまう 揚力のちがいのなかでまざまざとひきさかれたるわれの翅は 流体が墜落してる…

短歌日記77

* たがいの皮膚を確かめ合うように日暮れの街で巡り会うとき いささかの惑いもなしにくちづけをする若人のかげを横切る なべてなお花が明るいわけをいま話しましょうとナイフをかざす 迷い子も星の隠語になりゆける天文学の裏地の科白 かげはやさしく月は照…