失墜の時間
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ふとおもう冷戦だけが温かい戦後に生きる戸惑いの眼
みな底の女がひとり読書する固茹で卵の戦後史などを
ふりかえる子供のひとりいくつかの量子学など忘れてしまう
揚力のちがいのなかでまざまざとひきさかれたるわれの翅は
流体が墜落してる・青空が野性色して見殺しにする
両手を展げて滑走路に立つ男らのおもざし青く地平に暮れる
逃げ水に真午の月が差すなかを長距離走者ひとり走れり
残り歌かぞえてひとり雲仰ぐ殺人的な七月の青
ちがうひとばかりにであう夏の日のゆうぐれひとつ撃ち落とすかな