2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記63

* 雲澱む雨の予感のなかにさえ慄いてゐる三輪車たち さよならといえば口まで苦くなる彼方のひとの呼び声はなし カリンバを弾く指もて愛撫するわが身のうちのきみの左手 ゆうづきの充ちる水桶ゆれながらわれを誘う午後の失意よ 手鏡を失う真夏・地下鉄の3番…

短歌日記62

* モリッシーのごと花束をふりまわせ夏盛りぬときの庵に 待つひともなくて広場に佇める地上のひとよわれも寂しい 蝶服記ひとり観るなり眼病のおもいでなどはわれになかれど ものもらいおもいにふける金色のゆうぐれなどはここにはあらじ いちじつの終わり来…

短歌日記61

* 指で以て詩を確かめる未明にてレモンピールを浮かべたそらよ 手慰む詩集の幾多ひらげては撃墜されし雷雲を追う 夢のなかに愛しきものはありはせず河の流れが頭を伝う 荒れ地にて花を植えたり詩語などつつしみながら丘を下れり 待っている 果樹園にただ燈…

短歌日記60

* 毀れやすき殻のうちにて閉じこもる卵男のような少年 箒すら刑具おもわす蒼穹≪あおぞら≫に逆立つ藁の幾本を抜く 幻蝕のさなかの夜をおもいだすたとえば青いライトのなかで 街かたむきつつあり寝台のうえにおかれた上着が落ちる 菊よりも苦き涙よ零れ落ちや…

短歌日記59

* 雷鳴のとどく場所まで駈けてゆく光りのなかの愉しい家族 待つ男 笑う価値さえないおれのこころの澱をいま立ち上がる 駅じゅうにおなじ女が立ちふさぐ地上に愛のなきことに啼き 友だちがいるならいずれわが骨を拾わすといいてひとりの夏 隠さないで──きみ…

短歌日記58

* 夜なべてほむらをかこむきみのためくべる夏の樹燃え落ちるまで 風景論なくば真夏の太陽を力点としてカンバスを放て すべての朝のためにできるのはきみのため息燃やすことのみ やがてまたぼくが終わろうとする夜に蝉のぬけがら一切を拒む なが夢のさなかに…

短歌日記57

* 寺山短歌からの離乳が現時点での目標だ。いままで耽溺して来た世界からの離郷こそが鍵のような気がしている。多くの時間を前衛短歌の模倣のために過ごしてきたが、ここらへんで変転を遂げねばならない。といわけで前作からつづけて意識的に寺山式の詠みか…

短歌日記56

* 夏の嵐 かぜにまぎれて去るひとかげを追っていまだ正体もなく たれゆえに叫ばんか夏草の枯るるところまで歩めるわれは 浴槽が充ちる早さで夜が凪ぐ嵐のあとの傍白を聴け なにもかもが淡いよ夏のかげろうの辻をひとりで帰る足許 '90sを歩いたぼくら 庭先の…