間奏曲 04/23

 毒花を捧げるのみか母の詩に添える辞をわれは持ちえず


 ひぐれまの悪魔のようだ ガス器具の異常警報鳴りやまぬなら


 風をまねくひとのようだと誤解して電線工夫の仕草見つめる


 み空にてちる雲眺むときわずか生きるよすがもやがて失せゆく


 ためらいのなかにおのれがあるという用心棒の控える酒場


 涙ぐむ 夏草繁るところまでわれを導くテールランプよ


 境内を歩む女のひとがいう「神はあなたを見放したのよ」。


 星はみな16連符 装飾楽句〈ガテンツァ〉がちりばめらるる夜の無声なり


 ものおもうことのさみしさ道の果て屁糞葛の語る真実


 ルート音喪失したり学童の声湧きかえる下校の時間


 母という納屋を求めて発語する海啼く街に望郷あらず


 耳鳴りが止まない帰途よ夏の夜の博覧会はまたなお寂し


 枕木のつづく地平に暮れかかる雨雲ばかりわれを慰む


 乱切りの茄子を算えん夏の夜の空調さえもわれを咎め


 精液も涸れかかるなり中年の色慾なんぞどうとでもなれ


 吾が胸の窓がひらかずいちじつを暮らす仕方もなく時雨差す


 ルー・リードの詩集を買わん ニューヨーク・シティの雲が沸き返るなか 


 世の光り われと他者とをへだてたる情景ばかり眼にて残らん


 政治とは疎外の隠語 夜香木立ち枯れながら匂いを放つ


 ああ、ともに交じることなき余生あり セントルシアの夏の妹


 憂さ充ちる室の時計に釘を打つ姦夫のごとき一連の業


 「星幾たびもめぐる」ならその物語を売ってください


 誤解というたがいちがいの道歩む存在たちの雲が寂しい


 この雨はつづく炎がたちあがる心の澱を塗りつぶすまで


 此処に願うことなし朝顔のようなひとさえ隣におらず


 虚心にて水面を撫づるようにしてミカドの歌に芯などあらじ


 愛子妃の眼のなかにしらじらと三十一文字の呪学はありぬ


 牡牝のちがいはあれど過ちは等しくわれの友人なりぬ


 国産みの伝説さえも生け贄にするがいいさとおのれの古事記


 そうだった 祖母の弔電受けしときわれまたわれのおくやみをいう


 木々ゆれる あしたのかぜを予感してわれの帽子はきょうも飛ぶなり


 禁酒せしわれの頭蓋を被う夏、からす一羽が過ぎる潮風


 預言者の息子のごとくふるまえるヘロイン患者の皮膚また臭う


 夢のなか鰯の群れに追われゆきY字路に立つ/ぎりぎりの家


 馬果つることもなかりき草競馬見下ろすのみのわれの祝日


 石を飼う女も存りしやコクニーのような訛りで躾けるものを


 男などみな鰯だとオートレースの衝突を観ぬ


 よすがなどあらず水場に咲く花を剪る一瞬の夢が悲しい