2022-07-01から1ヶ月間の記事一覧

短歌日記34

* 清らかな家政学科よ乙女らの制服少し汚れてゐたり 史を読むひとりがおりぬ図書館の尤も暗い廊下を走る 国燃ゆるニュース静かに流れたり受付台のうえの画面よ たゆたえば死すらもやさしみながみな健やかにさえおもえる夜は 送り火をかぞえる夜よ魂しいが焔…

短歌日記33

* みずからの両手を捧ぐあえかなる南空のむこうガラスがわれる 夏跨ぐ熊多岐暑し森閑のなかを歩みて望む才覚 ひとがみな偉くおもえて室に立つ水一杯のコップを握る 彼方より星降る夜よバス停に天使のひとり堕落してゐる 夏しぐれ掴みそこねた手のひらを求め…

短歌日記32

* 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな 野焼きする意識の流れしたためる秋の化身の夜の呼び声 流れすら朝のまじない眼醒めては夢の小舟を放つ潮騒 あきらめてあやめの花を剪る…

短歌日記31

* 波踊る 真午の月のおもかげがわずかに残る水のしぶきよ 友なくば花を植わえというきみのまなこのなかにわれはあらずや 星の降る夜はありしや金色の糸巻き鳴れりねごとのごとく 雨を待つひと日は室のくらがりにわれは眠れる幼子のごと プラスチック甘噛み…

短歌日記30

* 水運ぶ人夫のひとりすれちがう道路改修工事の真午 からす飛ぶみながちがった顔をして歩道橋にて立ちどまるなり アカシアの花のなかにて眠るとき人身事故の報せを聴けり 夏蜜柑転がしながら暮れを待つ海岸線は終日無人 もしきみがぼくに呼吸をあわせれば実…

短歌日記29

* 鶫すら遠ざかるなりかげはみな冷たい頬に聖痕残す 悲しけれ河を漂う夢にすら游びあらずや陽はかげりたる 寂しかれゆうべの鍋を眺めやる もしや失くせし望みあるかと ぼくを裁く砂漠地帯の官吏らがミートボールに洗礼をす 夜はブルーまたもブルーに染めら…

短歌日記28

* 子供らに示す麦穂の明るさはたとえば金の皮衣なり 遠ざかるおもかげばかり胸を掻く溢れんばかり漆の汁よ かなたなる蛮声いつか聞ゆるにわれの野性が眼醒めたりゆく きみがいい きみがきみであるならばかつてのわれに否と告げたり たとえむこうにきみがい…

短歌日記27

* ベゴニアの苗木がゆれる 風の日に陽当たりながらわれを殴ます だれかしら心喪うものがゐて舟一艘に眠りてわれ待つ ゆうぐれの並木通りに愛を待つ わずかなりたることばのすえに 天使降りる土地の主人をまざまざと照らす光臨あざけりやまず 車座の僧侶の群…

短歌日記26

* 招き入るひともあらじや光り充ちさみしさばかり夏の庭にて シトロンの跳ねる真昼よ世に倦みていまだ知らないかの女の笑顔 草笛も吹けぬままにて老いゆけば地平に愛はひとつもあらじ 告げるべきおもいもなくて火に焚べる童貞の日の詩篇や恋を 熱帯魚泳ぐ夏…

短歌日記25

* 地の糧もなくて窮するひとりのみ草掻き分けて見知らぬ土地へ やがて知る花のなまえを葬ればとりわけ夜が明るくなりぬ ふりむきざまにきみをなぐさむ窓さえも光り失う午後の憧憬 たとえれば葡萄の果肉 季節とはわれを分割する鏡 星幾多あればわたしを解き…