短歌日記32

 

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 夕やみにとける仕草よわれらいま互いの腕を掴みそこねる


 世はなべて悲しい光り笑みながらやがて散りゆく野辺送りかな


 野焼きする意識の流れしたためる秋の化身の夜の呼び声


 流れすら朝のまじない眼醒めては夢の小舟を放つ潮騒


 あきらめてあやめの花を剪る夕べやがて夕立つわが誕生日なり


 莇散る冥府の終わり夢がまだ生きてゐるという傍証もなく


 夏の歌、雨に降られてなお激し子らの声する小規模保育


 雨あがり水鉄砲を乱射する男の子なるむごたらしさよ


 汎神の嘶く真午またいつかチーズケーキを食べたい気分


 導なき詩をしたためて死を祀る詩人の午後に沈む白魚


 浮子ひとつ漂う夏よわがための救いあらずや海ひとつ


 はつ恋をおもいいづれば夕ぐれのカリオンばかり耳をはなれず


 死ぬことをやめて愉悦にかまけたるわれの余生よだれも咎むな


 ひとりゐてあらゆる肖顔呼びかけるたわむれなどもいまは寂しく


 かなしみはみなと働くこともなく自我見つむるのみの朝顔


 神という妄想果てずみずからの魂しい捧ぐ母の割礼


 非凡なるものあるならば救われて然るべきかな水差しをわる


 われもまた路傍の石に過ぎぬというおもいにからる湿度の高さ


 病める子のかげが待合室を過ぐ心療内科の午後の暗がり


 黒電話したたる暑さ 公園の土鳩の一羽片足がない

 

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