*
日干しする鰯の顔にぎらついたわれが映った両の眼の真昼
それは否 これも否かな ひとびとが遠く離れる夜中の気分
立ち昇る狼煙のごとく葬儀屋の建物がまた軒を閉じゐる
人間の家が心のなかになくきみのことばに滅ぶ祝祭
色が迸る 輪郭を突き破っては光りを信ず
声残る 星の残りを数えたる明けぞら見つむふたりの人間
手袋の片方失くす夜の駅 われが時代の喪失にとり
悲しみの家のなかにて人間のサイズが変わる きょうは2インチ
ここでまた逢いましょうといえぬまま20年後の食卓に就く
灰色の唇ばかり人間を失いながら立つ道すがら
愛も死も厭いてオーデン詩集閉づまたも失う人間の道
肉体の居心地わるき秋の昼また一篇の詩などを拾う
ここにあれ遥かなひとよ互いには赦すことさえできないまでも
あくる日のわたしをおもう寝床にはもはや姿もない永久のことだ
正しさがわれらをわかつ秋の日の黒髪にただ櫛を入れつも
ひとに病むこともあったよいまさらにおもいで語る人夫だしかな
左手の道をまがれば現るる工場跡地に犬追いかける
*