meaning of life

10月の暑い夜

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 ブラジルから来た少年が通りで撃ち殺される 被疑者は嘆きの壁で、沈黙を貫いている 取調室は熱で彎曲していて、とても歪だ キュビズムが侵入した形跡もないのに、シュールレアリズムが混入したわけもないのに、ただ一輪の花が中央に活けられている レモン・サワ―が砂漠で爆発したのを皮切りにひとびとが吊るされる 12人の悲しい男たちが階段の裏手で、ファールボールを数えています

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 なんだか、おれが夏だった 夭逝のきらめきを求め、快楽に生きることは南 北ではない南だ 死ぬということに厭いてしまったから、柘榴の枝を伐る もはや憶えのない旋律に乗って、きみの棲む町を通り過ぎる 果たしていままでにだれかを幸せにしたことがあろうか なぜ、おれはおまえになれないのかがわからない たぶん自己同一性の被膜に覆われ、もはや変身できないからだ 遠くで汽笛が泣く そして植物図鑑の謀略で、すべてがデフォルトになる

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 はじめから仕向けられた罠だったのか、かの女は世界の秋を焼き払う 透明な葉脈と、反転する森がファスト・ファッションとともに燃えるのをかの女は笑っている 形式のない惨事と、脚韻を失った魂しいとが混ざり合い、そして器械体操のお兄さんがテレビで手をふるなか、最後の戦いがいま始まる

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帰途

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 三沢では雨すらも言語になる 帰途を失ったひとがレンタルビデオの駐車場に立つ 傘がない秋口にはからっぽのボトルがよく似合う したたかに酔い、そして瞑目するあいだ、すべての鳥が、カチガラスになったような錯覚をした それは10月の暑い夜 冷房装置の悪夢が膨張するアパートの室で、やがて人参が目醒め、鶏肉が暴れだすだろう 夜という夜の、寄る辺のない旅とともに 

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 天使が墜落する週末 演技論がわからないという理由で、飼い犬を撲殺した男がいま、便秘を耐えている 蟋蟀の眼のなかでフレームアウトする通行人がひとり、またひとりと失踪する エキストラがいないのだ 制作進行は悩み、そしてジン・ライムを呷る 殺し屋のいない世界で、いまなお活劇が求められるのはみながみな人生に愛想が尽きたせいだと、児童合唱団が輪唱するのをおれは待っている

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 洗浄豚のスライスを買って、帰途に就く 憑かれたおれは水を呑む男 だからといって無傷で済まされるわけじゃない 汚れた両手で氷を貪って、主旋律をブリッジ・ミュートする 叶えられない祈りとともに戦後を嘲笑する 空腹だ 全裸のまま、うろつき、吼え、そして大麻を幻想しながら、夜明けの街を抱きしめる 緑色だ なにもかも、

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