黄色い詩人たちへの手紙

路上


 詩のグループが解散してしまった
 女4人がいきなり抜けてしまったからで
 その理由はたぶんおれの存在にある
 おれはひとを不快にさせる
 その点、群を抜いてる
 だっておれはペスト
 だっておれは毒ガス
 歩きながら、そう考えた
 詩誌や歌誌に誘って欲しいとも、
 発言したことがあったけど、
 だれもおれに手を差し伸べなかった
 そのいっぽうでおれを天才だというのもいて、
 おれはいよいよ詩人たちを信用できなくなった
 かれらかの女らのことなんか、いまやどうだっていい
 言葉の持つ引力がおれには巧く扱えない
 ふるえる左手で、もはや書く内容がない
 水のないコップを持って、
 室のなかをさまよう
 散文詩
 そう散文詩はいまもおれの味方らしい
 だけれど、そいつとも最近はご無沙汰だ
 花のように生きたいといったら贅沢だ
 草のように生きたいといったら贅沢か
 でも、鉱物のように在りたいといったらどうだろう?
 道の終わったところから、反転して街を見下ろした
 時がまだ充たされない詩学から、おれはゆっくりと立ち上がり、
 路上の臭気のなかを歩き、枕詞をひとつ連れていこうと画策した
 星の輝きのむこうで、ベンチの脚が折れ、
 だれもいなくなった場所で、
 詩人という肩書をさげて、
 野良猫に差し上げた。


想像妊娠恐怖症

   *

 映画が終わってしまった 夏の情景設定がうまくいかない 配役を忘れたスクリプターが聞き覚えのない歌を口遊む 律動する心臓の音楽 サティとフォーレをちょうだい グレープフルーツのかわりに 機銃掃射された駄菓子屋で、変身ベルトを毀してしまった 子供たちが、まだ殺されていない子供たちが、笛を吹く夜半 水を呑む男が水によって崩壊する概論が、わたしの手のなかでいまでも、たしかに存在している

   *

 作品について語れることなんかない 映画が終わってしまった 息も絶えだえに走る男と、かれを裏切った女とが液状になって壜詰めにされている 映像は死んだ シナリオが炎上する湖畔にて、赤いフォルクスワーゲン無人のままにされている カエサルと時計の関係 歴史を創作する贋教授の万年筆がとまらない夜 変身できない悲しみのなかで、おれは地理の教科書をめくりながら、だれかの妊娠を恐怖している

   *

 できるだけ早いほうがいい 映画が終わってしまった ジュリエットを呼ぶ 野生の血が目覚めようとする朝、飛行機が離陸する 長い夢もいつか終わる そして階段を最後まで登るとき、たったひとりでぼくは規律する もうだれもいないから もうだれにも求められないから 科白はすべて棄ててしまった 決まりごとをぜんぶ否定した 詩歌がすべて排撃される光景を求めて、長い一本道を逆走しつづけるぼくがいるんだ 変身!

   *

 

黄色い詩人たち


 黄色い詩人たちは真夏に残された鰯だ
 それはユーモアを持たない
 それは悪臭を放つ
 それは黄金律を持たない

 黄色い詩人たちがおれのまえを通り過ぎる
 それはすましたおもづらで 
 それは小奇麗な姿で
 それはみすぼらしい詩学

 おれはかれらにとっちゃ、ろくでなし
 働きもせず、歌を唄うキリギリス
 おれは働かない、おれはもうもどれない
 倉庫や港湾や雑仕事にもどる気がない
 おれはたぶんだれの友人にもなれないだろう
 
 黄色い詩人たち、
 真夏の夜の享楽とともに
 じぶんたちの狭いコミュニティを守るために
 せっせとたわごとをやりだすんだ