white heat

 

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 粛清された犬どもが夜にむかって吠えている 大勢の観客が回転する場所で、花火が炸裂する 仄かに明るくなった公園で、子連れの男が反転チェストを決める 特撮ヒーローたちの抜け殻が、永遠の夏休みのなかで甦るのはきっと幻だ 最新のリマスターで発色のいい仮面が戦いを賛美する 聖歌を唱う童貞たちが塀のうえに立つ 砂漠を夢想する処女たちが行方不明の子供たちと融合し、やがて画面を食みだしたところ、蚕食し合うのは、おれの産みだした悪夢にちがいない

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 苜蓿を嘗めた子供が時計を握りしめて泣いている カメラが右にパンニングして、ランニングのひとびとを写す なにもかもがばらけてしまった暗室で、未現像のフィルムが燃えあがるとき、高架道路の車たちが一斉に停まる もう信じなくていいから、安心してひとを裏切る だれにでも平等に殺す義務を与え、消毒用エタノールをビッフェのテーブルにまき散らす たぶん、おれには手心があるにちがいない だからか、夜明けの桟橋で、発狂している男とハグを交わしてしまった これから必ず、殺す

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 病人以前の文学をおもいだせないでいる 木造病棟の果てにある中二階の実験室で、おれはつくられたんだ 火酒とともに生き、そして老いていく その光景がどこかで予行されたせいか、おれは眠れない 多くの記憶を焚きつけ、煤煙のなかで呼吸するとき、文学は女のようにおれを置き去りにして、室からでていってしまう もうなにも疑りはしない すべてを受け入れて、たったいま生まれる人類のために砂の棺をつくりつづけるのだ

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 ああ、さっきまでの憂い、そして浸透がうそのように消えていく ガス・スタンドの看板が回転しながら、遠くへと飛んでいる ツイストを踊りながら、殺し屋たちが和解するバック・ステージで、おれはいままさにマイクをスタンドから外す ビートは死んだ キック音がつづく ふいに涙が流れ、もう戻れないのを嘆く あまりにも悲しいヒート、あまりにも美しいライト すべてがぶつかってアラームが鳴るなか、救い難い高揚がおれのなかを、無人の観客席を、絶え間なく照らしていた

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