green hill hotel


green hill hotel

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 星の所在がわからないばかりに、だれもいなくなった室で銀鮭を輪切りにする もはや秘密を持たないからだが鬱と躁のあいだを駈巡る 天文学と植物学を結合したあの手が 男の内奥に侵入して帰って来ない夜 ヴィジョンは討論されないまま、かれの脳に移植される 記憶の鰭をカルパッチョする道路上で、かれは見たんだ、教授たちの混合を

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 たちまち煙になってしまった猫がいる ピンヒールに踏まれた月がレザージャケットを着て、こちらにむかっているのは現実にちがいない まぼろしのない時代にシェビーを走らせ、やがて赤い車体にきみの系図を掻き立てるのに、そう時間はかからない 冷えた心臓と、鱈を使って、河床に人体を描くのみ たったそれだけが夢なのだ

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 いやらしいことばかり考える それが美しさだと気づくまえにかの女を始末せねばならぬ モノラル録音のレコードがアーサー・リーを再現するとき、決まって馬の彫像が回転する 一回転ごとに蹄が剥がれてゆくのを目撃するのは、だれもいない映画 定点観測をしくじった靴が、自裁するとき、おれのなかの殺し屋が鉄の肺を装着して、いまにも寂しそうだ

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 コロンビアと口にするとき、シリアルは牛乳に溺れる 清順美学と夏のおもいでが交差するところで、ぼくは帽子をなくしたんだ それからずっと晩年について考えている もしも、帽子が暗喩ならば、その答えはかの女の酸っぱい涙だろう 暮れかかった土地で、測量人が倒れる 芝居の稽古を逃げだした罰をいま、このプラットホームでずっとずっと考えつづける

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glomy someday

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 ないがしろにされた帽子がいじけている パンクしたはずのタイヤが蘇生する秋 右手から左手までの距離で運行される靴が交通渋滞のせいで凋んでいる 解体工事の終わり 道が霞んでしまってよく見えない 町がひるがえるところで生活が始まっている 当然のなりゆきとして、冷凍された鶏肉が羽を奪還するときがテレビのなかに放映されようとしている

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 第7レースで勝った そうおもう男の銀河は嫉妬でいっぱいだ 星が機能しない季節 やわらかな秋が透き通る午后 だれもが愉しそうに歩く新宿の表通りで、たったいま打楽器が射殺された 黒い垂直体 長いためらいのなかで欲深な手がそれを触る 植物学が発狂する場面が繰り返し映写され、試写室の壁に毛髪が付着する だのにきみはブルースのなかで融けだしてしまう

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 蟹が歩く月面 ひからびた漁村の柱と舟が分解される 顕微鏡は健全だ 病院を抜けだした男を葦が掴む 夜が掴む 星を発見したのは山本通の酒場 パン屋とバーテンはグルだったから、山分けにした現金と引き換えに暴力許可証を買った もちろん、縁日の世界で それでも蟹は漁村にはもどって来ない 病理学の天才を探して、秋の光りに失われてしまえ、だ

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 救急病棟の深夜 母が初めて産んだあの子が人生に厭いている