the death and life of dismeaning

rush over the lifetime

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 ラッシュフィルムを装填する婦人会の集いが終わる 月曜日の朝どき 乱反射する小島なおが韻律のなかで回転するのを床屋の主人が見守っている 薄汚れた窓だった スカーフの赤さがあたらしい9月、それを求めていっせいに選手たちが飛び込む 土はやわらかい 熱病を拗らせた発送係が夜にむかってボールを投げる いつだったか、忘れてしまった性的な匂い 花の熟れたような匂いが気化爆発を誘発するころ、法医学者は口唇期の始まりについてのブルースを唄うだろう

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 詩神を失ったせいか、なにを書いても散文になってしまう 夜のようなひと、あるいはひとのような夜に魘され、覚醒以前のおもいでを忘れてしまう いまは安いベッドに横たわって、ただ恢復を待っている 完成した歌集が映画ではなかたったという理由で射殺されたとき、没落するアメリカの偶像とともに、あたらしい俳優の来歴がハリウッド的に悪化して、桔梗の花言葉が「不滅の愛」から「滅後の愛」へと書き換えられる

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 いやいや、愉しい遊戯でしたよ、あの映画は いままで観たなかでいちばんの犯罪でした 特に主人公の妻が撃たれるまでを鏡写しで演出したところは最高でした あなたはまるでほんとうに女を撃ち殺した経験がおありのようですね いままでの人生が夢でしかなった事実にようやく気づきました あしたの予定ですか? 段ボールで武装したトラックに乗って、ラストランを襲撃するつもりです わたしに妻はいませんからね! 

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 花もどきを調理しながら、上映を待っていた スクリーンの裏側でてんぷら鍋を火にかける 願うなら野生の牡になりたい もはや住宅街の平和な生活には飽きた 映像が浮遊する時間が欲しい ああ、とうとう映画が始まった おれの人生も終わりだなとおもった どうしたものか、花崗岩がわれ、そのなかから全裸の僧侶が登場する メリック以降の特撮を網羅した全集のようなかれは、果たしておれを救済するのかとおもいながら、遠いテキサスで咲いたサボテンの花が摘み取られてしまう光景を幻視する

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the beach boys strikes again


 もしも死者が定型ならば、
 生者は不定形ということなのか
 水に浸かった流木が沖に着くとき
 ぼくのなかに存った永遠という辞がすべて、
 駅という一語に置き換えられるのはいったいなぜか
 いままで忘れられてきた問題集が解剖される夜、
 ビニール傘はなぜレンタルビデオの駐車場にあるのかを教えろ
 とどまれ、
 とどまれ、
 苦い米を喰う蛮族の宴、
 産廃を蒸留して酒をつくる女たち、
 神は13行の標、
 ならば詩学は半ダースの鰯だ
 畸形の祝祭、そして浸透する夜
 かがり火を焚いた男の腕が延びて、
 いつのまにか叙情する意味、
 和解を果たせずにいることが人生の本質なんだ
 黒い膚の馬が駈け抜ける丘、
 不定形が死者ならば、
 定型は生者なのか
 粒子を崩壊させる一滴の宇宙や、
 ジューク・ボックスのなかで精製される量子とが、
 円環状の馬場のうえをひるがえる時間が、
 時には涙さえ超越する
 立ち去れ、
 立ち去れ、
 子供時代に見たことのある、
 見覚えのある男が話す
 あのとき、
 きみがぼくを突き放したときから、
 ぼくの解剖学が狂った
 心臓のかわりに、
 死者を飼うからだを、
 ここに持ってしまったということを
 なべて夜は温かい月に照らされ、
 いま住宅地図を疾駆する
 北のベニスから、
 南のシカゴまで、
 西の神戸から、
 東のタンジールまで
 生者が飢え、
 死者が富み、
 夜霧の発つ兎の巣穴で、
 たったひとり、夜を信じない男が、
 死者と婚姻を果たし、
 ぼくの墓へと、
 たどり着く。