短歌日記80

発条の不在やひとりかくれんぼ発明以前の愛のまなざし


 鏡との婚姻ぼくの手のひらが熱くなるなり ときめきテレパシー


 花ひらく 蕚のなかをいま泳ぐ群小詩人と夢の諍い


 繭眠る糸の一条われをまだ赦さないかのように搦んで


 なまえなくひとり不在の花撰ぶ学校花壇の雨後も暮れゆく


 隧道の子供のなかに谺して遠くかすかに聞える吐息


 ひとりでに機械が回る眼が廻る蜂の飛び交う油のうえを


 愛やも知れず ポラロイドに銀残しの光りあって


 目醒めるとき 羊のような顔した泥棒ひとりポーチにひとり


 ゆうなぎの歌よひとりのパンケーキ喰うたそがれの国にゐながら


 みどりごのくちびるひとつ奪い去るかぜのむくろの悲しさがある


 泳ぐ鳥書物のようにひらかれた羽根のなかにて生きる青空


 雨季ちかき町のよすがよ書を閉じて夜の果てへと流し給しめ


 空をわる紙飛行機の憂鬱よわが胸に来いわが夢を奪え


 わが夢のセツナのなかを漂えば発熱時代の幼子は《自我(ぼく)》