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忘るたび立ち現るる初恋のひとのうしろをしばらく見つむ
凱歌鳴る戦のなかを走る子のまざまざしき不安とともに
午睡するわが胸寂しいま深く棺のなかをゆられるばかり
仲の良い友がいるならそれでいい ひとりの日々を過ぎ越しながら
降ればいい 雨粒なども愛しくて路上にわれを取り残すかな
黄昏の領地バンドが駆けめぐる裸足のままの少年のよう
色紙の閃く真昼だれひとり抗うことのなきままに
うら若きわれらの過去よ枇杷の実が落ちてゆくなり悪魔のごとく
土狂う畔の爆発 太陽が失せる真昼のわたしの心
星屑やいつか頭上に降りて来い子供のような幼い光り
パーカッション鳴らす男が泣きわめく小鳥の化身いま飛びあがる
焚火痕ひとり慰む火もあらずやけぼっくりの燃え残るのみ
春菓子の匂いのなかに過去を見る男の頭蓋いま回転す
嬰児のかげがいよいよ巨大化す春の嵐に吹き荒らされて
花どきの督促状や森をでるかつてのように裁かれながら
伏字のごとく青年期あり男らが運び去りゆく記憶の数多
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