短歌日記5‐pt.1

 

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 忘るたび立ち現るる初恋のひとのうしろをしばらく見つむ


 凱歌鳴る戦のなかを走る子のまざまざしき不安とともに


 午睡するわが胸寂しいま深く棺のなかをゆられるばかり


 仲の良い友がいるならそれでいい ひとりの日々を過ぎ越しながら


 降ればいい 雨粒なども愛しくて路上にわれを取り残すかな


 黄昏の領地バンドが駆けめぐる裸足のままの少年のよう


 色紙の閃く真昼だれひとり抗うことのなきままに


 うら若きわれらの過去よ枇杷の実が落ちてゆくなり悪魔のごとく


 土狂う畔の爆発 太陽が失せる真昼のわたしの心


 星屑やいつか頭上に降りて来い子供のような幼い光り


 パーカッション鳴らす男が泣きわめく小鳥の化身いま飛びあがる


 焚火痕ひとり慰む火もあらずやけぼっくりの燃え残るのみ


 春菓子の匂いのなかに過去を見る男の頭蓋いま回転す


 嬰児のかげがいよいよ巨大化す春の嵐に吹き荒らされて


 花どきの督促状や森をでるかつてのように裁かれながら


 伏字のごとく青年期あり男らが運び去りゆく記憶の数多


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