短歌日記74


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 バロウズの酔夢のうちに横たわるおれの余生のカットアップ


 塒なく地上をわれの巣と見做す老夫もあらじ秋の地平よ


 かぎりなくヤヘクの夢を見るときのアジア革命ひとり眺むる


 呼ぶ声もなくて寝床に眼を醒ますヘロイン切れの酔い覚めの寂しさ


 わがうちのinterzoneひらかるる女房殺しのオカマの祝祭


 わがうちの猫がひらめく暗黒に両の眼がまだ光りたたえつ


 刈り人のいない時間よ死を孕む帽子のなかの自画像ひとつ


 救抜の旅に憑かれて立ち止まる知覚の扉此処にはあらず


 死に際の夢かも知れぬわが生のハーフボトルにしがみつく夜


 放射性物語読む夜よいまはだれにも会うべきじゃない


 beat! beat! beat! 吠える声すら聞えないメヒコ砂漠の裁判官たち


 あさっての砂のむこうに現れて子供攫いのマントが消える


 アリゾナの地獄のうえを流れ来る心臓病の売人と会う


 フリスコ無宿を気取りながら酒を切らした朝の混迷


 やがてまた知らない土地に輪舞する鷲の嘴きょうも黄色い


 神もなし英雄もなく咎のみがわれらをわれら足らしめるかな


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