短歌日記13

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 同志不在なり萌えながら立つみどりたちやけに眩しく


 地図上を旅する蟻よ思想なき犯意のなかのわれらが国家


 期してまだ挑むことさえできぬまま遠くの海の潮騒やまず


 鳥籠のかげが寂しくほぐれゆく夕暮れどきの落胆ばかり


 監獄に夏蝶ひとつ放たれてわれは呼吸を重ねてゐたり


 手のひらに乾く葡萄よ革命の響き至らずきょうも過ぎたり


 不貞知らずままに老いゆく旧暦の四月が暮れゆく


 望まれぬ枝を間引いて立ちあがるかれの微笑のゆえなど知らず


 眠りなき男の心理伏射する姿勢のままで吊るされながら


 地平あれど国あらず花いちりんのメソッド演技


 にっぽん脱出できぬ五月雨色の国家の衰亡

 
 けだもののように雨降るチリコンカン煮ゆる鍋はいつも赤い


 深夜高速回転する月の光りあらばきみを愛しくおもう


 放浪の夢を語れるわれの夜、有蓋貨車にゆられる夜よ


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