短歌日記15

 

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 わが春の死後を切なくみどりなす地平の匂いいま過ぎ去りぬ


 感傷の色を数えるだれがまだぼくを信じているかとおもい


 遠ざかるおもかげばかり道化師の化粧が落ちる春の終焉


 夏の兆しあるいは死語のつらなりにわれが捧げる幾多の詩集


 わがうちにそそり立つ木に名づけ得るなまえはありや雨季も終わりぬ


 過去という他国のなかに埋もれる楡の若木よ疵を癒すな


 映像論または詩論のなかにさえ居場所がなくて尿するのみ


 かつてまだ若き両手が望みたる麦畑の鳥または花束


 マントのなかで眠る少年のような月がいっぱいの空跨ぐ

 
 家という呪縛のなかで育ち来る枇杷の木さえももはや切られて


 少年の日々を憾めば暗澹として洗面器に顔を埋める


 犯罪記事読み耽る昼の愉しみ たとえれば蜆


 野性なきゆえに一生蔑される男のなかの地平が荒るる


 悲しみもゆかこのなかに忘れ去る もはや再会叶わぬゆえに


 雲遊ぶ 帰らぬものを求めつつわが一切を夏に投じる


 アナキストにもなれず またひとつふたつ花を枯らす午後


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