をとこ来ぬ

 ふなかげの淡さの陽炎午睡して

 踏む浪や月のかたちに触るるまで

 夏の夜に灯台守が泳ぎ着く

 海見ては孤独のありか確かむる

 廃屋の佇む秋よ尻屋崎

 朽ちる家営みもまた暮るるのみ

 去るときを地平のなかの棟とせる

 わがうちの愛猫秋の茎を咬む

 冬瓜のあばらに游ぶ雨垂れや

 冬ごもる街灯ばかり影長し
 
 見晴るかす頭を垂れる椿たち

 師走来て十七音の猫が翔ぶ

 海亡ぶ溲瓶の果ての氷河視る

 禊とは夏の季語なり男来ぬ