美しい仕事

 夏の花おうまがときに咲き誇るパークサイドの街灯のなか


 まなざしの光りのおおく吸われゆく雨期の花咲くみどりの小径


 うそがまだやさしい真昼 緊縛のバニーガールをひとり眺むる


 歌碑を読む老人ひとり古帽のかげに呼ばれてやがて去るなり


 十七音かぞえながらか指を折るひとりの少女図書館に見る


 季語忘る夜のベッドよなぐさみにならぬあかときわれを焼くのみ

 視るたびに顔がちがってゐるくせにおなじ声音で話すかの女ら


 おもいでもあらじと云いてさみしさもうつくしきかなきみのやまな


 みささぎにかかる光りかおれたちの過去などまるでなかったようだ


 海を売る少女ありしか炎天にかかる雲さえきょうは悲しい


 宇宙という裁きもありぬ銀河にて名づけられたる朝の咎人


 語りとは声の残滓かものがたるひとのかげ読む通訳士たち


 かぜまじる 初夏の嵐よひとびとの営みなどがわれを惑わす


 かぜわたる 区画整理の跡地にて老夫のひとり杖を投げたり


 とことわの花野のありしか炎天の素人土工の頭蓋啼きをり


 青嵐来るにまかせて夏草の束をくすねてわれを慰む


 ベルボトム逆さに吊す夏の夜の猥語のごとく愛しきものら


 はつ夏の水を眺むる凡夫たるゆえなど知らぬ清掃時間


 われもまたあたまさげさしひとにみな死ねと祈りし清正人参


 鞭のように蛇ぶらさがる樹木あり『美少女図鑑』ふと落としたり


 方代の額髪青き時代なぞ午睡のなかにひとり現る


 よこがきの思想ばかりが照らされて拝むひとあり 神の莫迦


 うつくしき仕事ありしか夏の日の父を殺せしわが夢のうち


 ドニ・ラヴァンを兄と呼びたきいちじつを生きて羞ぢることもなき夏


 少なくていいのだ だれも引き受けぬ如雨露のなかの残り水など


 抱えては深くジャンプす 死の色はみなおなじとうあじさいの束


 やがて世が夢だと気づくこともあれ 革財布に護符を入れたり