横倒しのハーレーダビッドソン眠る路上にて遠巻きに小火騒ぐわが
前線の雲もやがては見果つるに悪魔主義者もしずかに去りき
仮面剥がし逐えぬまま死する二十面相あり──
羞じらいもなくて眼をひらくひと きみのようだと告げる通信回路
椿象のゆくえをおもう俎板のうえを這ってはじきに消え去る
ことば少なげに愛を語る男に遭っていまだぬぐえない背徳感
映写技師失踪したり夏の魔に光り失せたるスクリーンたち
ミシガンという渾名の猫が飛ぶ夏の庭にて語る亡命
倖せなど知らない 正午の鐘をいつくしむのみ
「この夜がいまに正しい昼となる」──夢の日記に書かれし科白
花時を忘れたように立ちあがる電子梭子魚のパンチャー係
中央電算室爆発する真夏の朝顔さえ愛しい時間
花筏接続端子まちがえるエラー表示の鳴きしきるなか
どこかでいれちがうひとがゐる駅のなかを漂う空洞としての時刻表
あなたを糾弾する男の左手にスパナあり──
夜泣きする子供の声が悲しげなときがつづいてひとりつまづく
現在地表示あらずゆきどころなきわたし/
雲過ぎて男の内奥を走り去り充ちみちあふるサックスブルー