家出娘

 夏がようやく店頭から失せ、秋がささやかな絵看板になってあらわれたころだ。灰色がすべての、顔のない路次の途中、女の子がじぶんの服を売っていた。それも毎日、犬や猫が食堂へでかけ、ひとのすがたも同じように見えなくなる時間帯に決まって。ぼくがはじめてぶっついたのは雨のあがった木曜の午。往来のないところをぶらついていると、傘を展げた娘が着ている服に値札をつけて立っている。別段気にも留めず、その日は通りすぎた。

 翌週、がまんならない朝の光を避け、その路次にいく。かの女はまた立っていた。服は少しずつ売れるのか、初秋といえ、肌寒いかっこうをしていた。大昔のひっぴーや、あばずれならこんなことも平気かも知れない。でもかの女は耳環もせず、髪は黒、青白い肌でかたく口をつぐんでいるのだ。なんだか狂おしくてたまらないものがあったから声をかけてみる。──なんでそんなことを? かの女はいう、家出してきたんだと。金がなく、宿もない、梨の木のおもいでがあるだけよ。

 さらに翌週来ればかの女は裸になっていて、ふたりの男が運びあげるところだった。そしてすぐそばの店に連れていき、ショーウィンドウに設置した。そこへ若い女たちがまったく事務的な態度をもってして、かの女を着飾らせ、非人間的ななにかに変えていった。まるで人形なすがたに恥ずかしながらぼくは見惚れしまい、いつかきっと大枚を叩きつけてかの女を買ってやろうとおもった。あすも職がなく、金もない、梨の木のおもいでがあるだけだ。