短歌日記50

 

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 たそがれのもっとも明るい場所にゐて幼年時代の悪夢をおもう


 星屑やわれを戒めこの街の流れのなかで永遠にあれ


 青果店おそらく檸檬の爆弾を流通せんと企んでゐる


 ひとがみなわれを忘れて歩みゆく一瞬のやさしい渚


 神の戸を開け給え、うつしよに燃ゆるキャデラックのため


 この夜を犯せ、この都市を犯せ、いずれ来る死に捧げ給えよ


 わが友よ、あまねく夜を歩きたるひとの横顔覘くべからず


 雨がやみ春訪れる街角に各々の衣装展示されたり


 たらちねの母も静かに眠りたる夜の大きな穴が開くなり


 墨守する国語のひとつ字訓とは河の流れに逆らわぬこと


 わが死後を神が笑えばそれよし鮭の産地をひとり眺むる


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