初秋にて現るる死人ひとりのみ
秋暮れる雲間にピアノ聴ける使者
月蝕や喪われゆく未亡人
秋霖の烈しき真昼水を呑む
水にふくれる陽光もやがて秋
火事遠き果肉のごとき匂いして
さすらえるもののみこそ秋の月
犀を飼うわが幻想よ竹の色
瘋癲の死す秋ありぬ保護室や
縁日の世界も終わり万華鏡
秋月や連れて歩いて迷うまま
陽もやがてみじかくなりぬかげの意味
鳥影や地上に映ゆる黄葉なり
亡国の猫いっぴきよかげ長し
砂充ちて閉ざさるるのみ海水浴場
夜風冷え姉の死后まで眠る犬
骨を透く秋雨ばかり検査にて
少年期遠きおもかげ秋祭
階をのぼり来たればもう九月
訪れて消ゆる初恋芒原
河に群るる蜻蛉のなかに日暮れあり