乾涸らびた道に南半球をめざす蟻たちの行進がつづく
 いずれの運命、あるいは私的な詩を全うするべく立ち上がった足
 われわれがわれわれでないと気づかされる、ささいな情景たち
 一人称を見失いかけたおれを慰めるかのような象形たち
 いったいどれほどの代償を以て、この道を歩むのか
 おれにはいまだ払う術が見当たらない
 謀略に充ちたデヴィッド・バーンの眼差し
 dance と fuck に溢れたショービズの世界
 憧れはさもしく、望みは卑しいとおもわされる祝祭
 やがて零れだした果肉を受け止める皿がないという理由で
 配給米を拒絶された女たちの初夏よ
 ああ、きっとこんな妄想もたやすく記述されてしまうんだ
 おれがおれのなかではち切れそうなこんな夜は。
 『夢の視線』、
 ヴィム・ヴェンダースの評論集を片手、
 村木道彦の『存在の夏』を解剖していた
 いろくずの眼を照らす光りのような歌篇を読んでいた
 それでもざわめきがやまないおれの脳髄はずっとだれかを呼んでい
 体内でうずく駅という主語が、やがて旅という一語に変わるまでの時間を見守る
 両手を汚したこともなく、おれを虚仮にしたやつらを赦せないでいる
 妄想のなかでおれはなんどもやつらを傷つけて来たのに
 ほんとうの意味で撲り合うことができないのはまったく残念だ
 きみたちのような男たちに屈辱を
 きみたちのような女たちに剥奪を
 是非とも学ばせてあげたかったんだ
 けれどもおれはおもう
 おれの人生で
 どうして大切な時間を
 おれが生きようが死のうが知ったことじゃないやつらに捧げるのかって
 まるでそれじゃ、おれがいまだに従属的な存在で、
 主体にはなり得ないといいふらしているかのようだから
 きみたちには反吐がでる
 おれは過古の哀傷をかなぐり棄て、
 南半球を歩く
 いままでの人生──くだらない雑役労働たちにくたばれといって、
 燃えさかる向日葵のなかで、たったひとつの種子を握り絞める
 遺恨に充ちたおもいでなんか忘れてもはや、
 たったひとり、蟻のように
 立ち去ってしまうんだよ。