両手にはなにもなくてもいいのにな果実くすねるぼくのうしろよ
しろがねの秋のおもいで抱きしめる孤独の温度いまだわからず
天唇の綻び見たり秋の夜の光りのなかで茗荷刻みつ
ぬくぬくと毛布のなかでくり返すあの日の夜の約束忘る
わたしならああいわない猫の手が次のせりふを遮るならば
じゃぼんという音が跳ねて気づくとだれもない浴槽にわれひとり
タンポポの花が砕けてちる跡に城が建つかと見守る猫よ
ここでまた逢いましょうとはいえはしないぼくの不在を知らしめるため
わたしのなかに鬼がいるならかくれんぼして迷子になりたい祭りのあとの
できあいの恋のみぞ知る月光が冴えざえとしてる駅の上を
ゆうやみにふかづめ光る花のごと凋れるおもい抱えきれない
まだ夜が温かいよな寂しいなきみの躰のいちぶになりたい
ことさらにアイスを欲す ゆうぐれの少年たちの没落を見て
ぜいたくな花の最後か路上にて死んだ花びらいくつも踏みつ
あじさいのなかで女がたちどまる声なき雨季の果てのはてまで
子鴉のまなざしわれを見下ろして預言するなりわが来世なぞ
ふうげつに厭きてひとりの家路すらなにも見えないさよならきのう
パイロンの群れ掻き分けてその道にだれもいないという道しるべあり
性にうずく夜もあらんか両足を抱えてひとりテレビを眺む
きざはしのむこうにひとつ陽が落ちる抱擁もなき明日の始まり
櫂ひとつ流れる河よ陸橋の上より唾する苦いつば
ことばなんかじゃなかった幾千の星に問いかけるまなざし
わたしとて譬喩に過ぎないブランコを蹴って消え去る秋のかぜ聴く
遊具抱く子供のひとりさみしさが草の匂いにまぎれてとどく