*
ためらいの兆しもなくて口噤む 炎のようなひとの作業着
いくつかに書きためてゆくおもいでもあり 鶏頭も青ばむ
手習いの文字かすむ雲がある 遠ざかる景色のなかで
まるでひとに甘えるようなわれをりぬ 羞しいまでのしぐさ
きみのいう決まりごとなんかいらない 夏まっしぐらの土嚢
なにがなくてそらす眦ふかく見る 都市計画に零れた土地よ
祭神のゐない道にて通りゆく祭囃子のなかのきみが淋しい
さんずいをかかぐ正午の世界にて踊りだしたり子持ちのシシャモ
ゆく夏の冷房装置 悪夢とは二重露光の自我との対峙
すずかぜに乗せるおもいもなくなってモスリン詩集荒野に置きぬ
地獄にて警備員採用す 履歴書に没年を書きぬ
制服を汚す 日雇い人夫たち からっぽの箱に南瓜入れる
カゴ台車ゆく出庫場 だれかが叫ぶ番号は7の26!
同期せしビートマシンが呼んでゐる信仰のない男の望み
陽の照りしマネキンたちの微笑つづく田園都市は
警告表示現れる一閃のモニターいつもより生温い昼餉
たそがれにまぐそのような匂い発つちまたの夢
*