短歌日記2


 かげひとつ 街のなかから掬いあげ いま左手の森に投じる

 

 あえかなる星の棲家よ夜というイレモノあればぼくも入りたい

 

 まだら雲 西の空にて揺蕩えばまだわれ知らぬ旋律を聴く

 

 かすかなるときのさえずり 終わりとはすべての罪が贖われること

 

 川魚 逆さに泳ぐ川上の 祈りのような水の満ち方

 

 神秘体験する電話ばかりの回転するデパート

 

 わがために黒髪洗う乙女らの心臓深く眠れる森は

 

 かぜのなかおのれを責めて歩きつつ座標のちがう人生おもう

 

 眠れわが亡霊 ゴーレムとともに街をさまようなかれ

 

 星づくめ 仮面のなかに展開する高架道路の夜のランプよ

 

 冬歩く 回想ばかり 人生はやがて墜落する真昼

 

 火祭りの果肉ひとつが腐れゆく だれもいないという事実

 

 坂道の途中がいまだ描かれず 空白に落ちるひとびと

 

 水瓶の大きな月夜 たとえればひとの重みに昇る新月

 

 言葉なきわれの地平に訪れるものあれば鳥を撃て

 

 ひと夏のおもいでありぬ森を抜けたら一面の水

 

 あなたの水のなかを歩いてわたしが訪れたのは幻灯機

 

 ふいに襟がゆれる たったいま閉じた心から風が吹くのだ

 

 頬熱くかぜのなかにて立ち止まる だれかがぼくを呼んでいるなら

 

 永遠を知らない真昼ひとりのみタクラマカンの砂上に光る

 

    映写技師不在のなかに重なってやがて光の一部となりぬ

 

 レズビアン 猛獣使い 売人は煙のように消える夢かな